ウイの瞳


 ウイはあれから外へ出たことがない。だから陽の光を浴びることもなく、透き通るような白い肌をしている。質素で少ない食事のせいで十分に栄養を摂れておらず、大きな目は落ち窪んでいる。四肢も力を込めればすぐに折れそうなほど細い。かつては真っ白だった服も黄ばんでみすぼらしく見えた。
「ねぇ、ヒロ、見て」
 昼食を持って彼の部屋に現れた僕を見てウイはパッと顔を輝かせ、一度も開かれたことのない窓を見た。雨がしとしとと降っていた。
「雨だね」
「うん。ねぇ、雨ってとっても綺麗じゃない? ヒロがいつか見せてくれた指輪の宝石みたい」
 ウイは僕が低い木製の机に置いた昼食に目もくれず、窓の外の雨に釘付けになった。彼の目は宝石以上に澄んでいて、今のような雨の日でも輝いて見える。

 ウイの部屋を出て外側から鍵をかけると、妻が咳をしながら弱い足取りでこちらへ向かって来た。僕は急いで彼女に駆け寄った。
「起き上がったらだめじゃないか。医者にも絶対安静だって言われてるんだろ」
「今日は調子が良いから大丈夫。ねぇ、あの子、まだ死なないの?」
 妻がウイの部屋に目をやって言った。
「……もうかなり弱っているよ。明日ぐらいで目が取れると思う。だから早く寝なよ」

 翌朝。ウイの部屋に朝食を持って行くと、彼はベッドの上に伏せたままピクリとも動かなかった。不審に思い、近寄って仰向けにして脈を診るとウイは事切れていた。
 僕は彼の上にまたがり、二つの眼球を取り出した。その二つは血に濡れていても青く輝き、そして澄んでいた。

 ウイの眼球二つを持って宝石買い取り屋に行くと、そこの主人が目を丸くして驚いた。
「こりゃあ……あれだな。稀に人間や動物の身体の一部から青い結晶となって出てくる生物宝石だな。どこから取ったんだ?」
「少年の両目です」
 主人は僕を一瞥し、またその生物宝石に目をやった。
「いくらになりますか」
「そうだなぁ……一つ五千……ぐらいだ」
 今後の妻の医療費を支払っても余りが出るほどの値段だった。

 僕は一つだけ買い取り屋に引き渡し、もう一つは彼の墓場へ持って行った。それには「五千」と書かれた値札が貼られていた。
 ウイに出会った時、妻が原因不明の病気にかかり、僕は莫大な治療費をどう支払っていくか悩んでいた。有り金全てが底を着いた頃、ウイは薄暗く、湿気の多い路地裏で一人汚い毛布に包まってうずくまっていたのだ。たまたまウイのきらりと光る目が見え、すぐにそれが希少で高価な生物宝石だとわかり、売り飛ばすことを考えた。本当はそのまま殴り殺して両目を抜き取っても良かったのだが、もし僕がやったと明るみに出てしまった時の恐怖を考えると手を出すことが出来なかった。だからと言ってこのまま見過ごす訳にはいかないので、僕はとりあえずウイを自宅へ連れて帰り、妻に相談した。すると彼女は与える食事を徐々に減らして餓死させることを提案した。

 ウイの墓に値札を貼った宝石を置いた。まるで彼が墓の底から僕を睨みつけているような感覚に襲われた。
 僕はその値札を外し、墓場を後にした。するとすぐに大粒の雨が降ってきた。


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2008.02.10 | | Comments(12) | Trackback(0) | タイトルテーマ

『雨音』



身体が冷たい汗を掻く。
夕方の薄闇が私の奥底を刺激する。
私は沸々と興奮を高め、肩で息をする。
周囲の物音が耳の奥でうるさく鳴り響く。
大丈夫、このまま通り過ぎてしまおう。

滝のようなどしゃ降りの雨の中を走りぬけ、一軒の本屋に入る。
高ぶった気持ちは今も冷めぬまま、私はゆっくりと店の奥へ進む。
額から冷たい水滴が零れ落ちる。
雨と汗の混じりあったそれは、私の頬から滑り落ち、顎を通って床へ落ちた。
私の連れて来たにわか雨は、店内の床に水玉模様を描いた。
適度な重さの本を手に持つとそれをゆっくりと開く。
片足で地面の水玉模様を擦ってみせる。
足あとを残せば残すほど、この街では生きづらい。

本を読む素振りをしながら、片目であの本を探す。
次々と滴り落ちる水滴を36ページが吸い上げる。
あの本はいつもの場所にある。
黄ばんでしまった値札が貼ってある。
1200円。
ゆっくりと手を伸ばす。
ごくごく自然に、しかし速やかに。
辺りを見回す。
大丈夫。
突然の雨に慌て、店主は急いで店外にあった本を片付ける。
この静かな店内には雨音だけが響き渡る。
あの本を静かに学生バックに忍び込ませる。
それはとても容易いことで、私は少しだけ微笑んだ。
快楽に溺れてしまいそうになる自分を奮い立たせ、出口へ急ぐ。
早く早く、しかし自然に。

立てかけておいたミストグリーンの傘に手を伸ばすとき、
力強く右手を引かれた。
覚えのあるその掌は、振り返る必要もなく、私を冷たくさせた。




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2008.02.02 | | Comments(0) | Trackback(0) | uko

タイトルテーマ

こんにちは、斗織です。
ゆーちゃんからのテーマが上がっていたので私も早速。
それでは今さっき思いついた「雨」でお願いしまーす。

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2008.01.22 | | Comments(1) | Trackback(0) | タイトルテーマ

タイトルテーマ

こんばんは、ukoです。

そろそろ次のテーマを発表します。
今回の私のテーマは「値札」です。

斗織よろしくー



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2008.01.21 | | Comments(1) | Trackback(0) | タイトルテーマ

後書きと感想

こんにちは、斗織です。
ゆーちゃん、マイペースで大丈夫なのですよ(´∀`)ノ お久しぶり!

感想を書くのは好きなのですが後書きを書くのは不慣れです。ふへ。

『幸福の蜂』
ブラックメルヘンで良いですねー。私の好きな雰囲気です。
ゆーちゃんが言うとおり、人の幸せなんて他人からすれば歪んでたりしますよね。価値観とか。
先日友人が遊びに来た時にコップを割ってしまい、その破片を携帯で撮ろうとしたら吃驚されました。
だってガラスの破片って綺麗じゃないか。撮ってみたくもなるもんだよ!
おお、話がそれちまった。
今回のお話はリズムが良くてとても読みやすかったです。
淡々とした文章が逆にぞーっとしました。
>世界がてっぺんまで悲しみに浸った日曜日。
>世界が流した悲しい涙に、喜びの花が咲いた月曜日。

が大好きです。
こういう表現ができるゆーちゃんが羨ましい!本当勉強になります。
ある意味幸せな蜂さんが可愛らしくて可笑しくて可哀想でした。
……こんな感想でごめんなさい_│ ̄│○


『姉と俺』
私にしては珍しく日常を描いた作品でした。
お題が「腫れる」と「ストライプ」という難題だった割にはすっと書けました。
女の子女の子な女子は書きにくいのですよ。書き手がそうでないから。笑
あんな姉と弟は傍から見れば微笑ましいかも知れませんが、
本人たちは毎日が本気の格闘で大変だと思います。特に弟、精神的に頑張れ。
たまにはこんな感じの話も良いですね。

ではゆーちゃん、次のお題楽しみにしてます(・∀・)


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2008.01.15 | | Comments(0) | Trackback(0) | あとがき・感想

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プロフィール

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